書道を極めるー私のこれまでとこれから(美術教育講座 谷川雅夫)

奈良教育大学
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書道を極めるー私のこれまでとこれから(美術教育講座 谷川雅夫)

 身近なテーマについて教員に語っていただくリレーコラム。
 テーマは、引き続き「これまで→これから」
 奈良教育大学の教員のこれまでのあゆみ、そしてこれからの展望についてお話しします。

 

 奈良教育大学の書道専任教員となったのが50歳を過ぎてからでしたが、この10年あまり奈良で生活し、書道を専門にする大学生と授業をはじめ身近に接し、教育や社会について考えることができました。

 私は東京学芸大学の書道科を卒業し、30代は10年あまり中国北京で生活し、中央美術学院で中国美術史を学んだ後、大学で日本語教師をしながら中国の書道家達と交流し、切磋琢磨していました。40代は日本に戻り、中国語教師や通訳をやりながら50歳になり奈良教育大学の書道史等理論方面を担当する教員になったのです。

 30年ぶりの日本の大学での書道教育ではありましたが、教育の質も学生の雰囲気も30年前の自らの学生時代の体験と重なるところが多く、すぐになじむことができました。オンライン授業が可能となり、コンピュータを前にスマホを扱うところは以前と異なりますが、書道そのものの学びの中では変わらないものが維持・尊重されてきたと言えます。「不易」と「流行」とに分ければ「不易」が大切にされ、奈良という土地において、地に足をつけて行われています。例えば、奈良の老舗「古梅園」の墨作りの工程を見学に行ったり、奈良県主催の天平祭の会場で御朱印を学生が書くにあたり指導に関わったり、宇治の黄檗山萬福寺や宇治橋断碑に赴き研修をしたりなど、地域の伝統を大切にした教育を自然な形で取り入れながら書道教育を行ってきました。

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『ならやま』2017年春号より 研究室にて

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2021年台北市国際書法展ビデオレターより 書道実習室にて

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研修旅行 平等院鳳凰堂にて

 以上が私の「これまで」であり、「これから」として今考えていることは、次のようなことです。

 来年3月の定年退職後、私は生活の拠点を中国に移し、中国の大学生に教授したいと思っています。おそらく「日本書道史」がメインになると思われますが、「日本書道史」のテキストの行間にあるような、地理・歴史・文化・芸術を一体化して語れるような力をつけたいと思います。しかしながら、このコロナ禍の中では各地に行くこともままならず、2年前に立てた日本全国の県立博物館を一廻りする計画もあまり進んでいませんが、読書等で専門外の知識を補い、自らの武器にしようと思います。そして30代に出会った中国の書道家達と、また日常的に交流・切磋琢磨し、自らの書の様式を確立したい。この10年がその時であると考えています。

 中国が経済的にも力をつけ、世界における影響力を増している現在、中国の伝統芸術である書道の世界的な認知度は、これからますます高まります。そこには日本で書道を見ている視野では測れない基準があり、中国を意識しなければならない現実があります。最近は、中国へ留学し、さらにそこで就職する者も生まれていますが、私もその潮流の中で先陣を切る立場に立ち、自分が奈良教育大学等で教育に携わった卒業生達がそこに加わってくるような、そうしたことが現実化したら素晴らしいと思います。

 来年の3月に、このコロナ禍が収束していれば、奈良県文化会館2階を借りて「谷川雅夫書道資料展」と題して、ゼミ生と築いてきた幾つかの展覧会をふり返る大展覧会を行い、自らの集大成としたいと思います。皆様是非見に来てください。

奈良教育大学 美術教育講座 教授 谷川雅夫

※この記事は、2021年5月の情報を元に作成されています。

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カテゴリ   :   リレーコラム
最終更新 : 2022-02-28 16:58