身近なテーマについて教員に語っていただくリレーコラム。
テーマは、引き続き「これまで→これから」。
奈良教育大学の教員のこれまでのあゆみ、そしてこれからの展望についてお話しします。
高校での進路相談では、高校の「物理」か「数学」の教員になりたいと言い続け、岡山理科大学理学部基礎理学科に進学しました。この学科は、理学部ですが一つの分野に特化した学科ではなく、物理学・化学・生物学・地学・科学教育学・人類学(考古学)・数学が必修で、本学の理科教育専修のカリキュラム+数学+考古学と、まさに理数教員養成のカリキュラムが組まれていました。では、なぜ今の研究分野を行っているかについてお話しします。
私がこの分野に出会ったのは、大学2回生の時でした。それまでは、私自身も全く知らない分野で、恐らく聞いても何を研究する分野なのか分からないと思います。2回生の時に私の恩師(元京都大学防災研究所所長)が異動してこられ、物理学でも量子力学や高圧物理学などの分野ではなく、自然を相手に様々な現象(土石流、密度流、塩水遡上、琵琶湖湖流など)を明らかにしていくための地球物理学分野があることを初めて知り、研究室の門をたたいたことが始まりでした。この研究分野は、研究室にじっとしていても何も研究が進まず、恩師はいつも「青白きインテリではダメである」と言っていたことを思い出します。そのため、研究データの取得のために、観測機器の設置や調査などでたびたびフィールドに出かけていました。湖や海の水環境は、風が吹けば混ざり、気温によって水温分布が異なり、水環境は日々変化していきます。そのため、様々な期間や季節にわたっての連続的な観測を必要とし、フィールドワークが本当に重要で、根気が必要な分野になります。
教員を諦めたわけではありませんでしたが、4回生の卒論で「汽水湖(中海・宍道湖)の物理特性」という研究を行ったことがきっかけで、さらに発展させ、中海・宍道湖での研究を続けたいという想いから、岡山理科大学大学院理学研究科修士課程、さらに博士後期課程へ進学し、中海・宍道湖をフィールドとした研究を長年続けました。当然ですが、中学校・高等学校教諭一種免許(数学と理科)、専修免許(理科)と博物館学芸員の資格は取得しました。
恩師に出会っていなければ、教員になっていたかもしれませんが、どのような道に進んでいたかは分かりません。人との出会い、学問との出会いによって人生は大きく変わります。
バイカル湖における水温鉛直分布測定
(1992年9月18日 ロシアのバイカル湖湖上にて:大学院生M2の時)
島根県水産試験場調査船上での機器設置作業(1995年:大学院生D3の時)
2004年に奈良教育大学に着任するまでは、以下に示すような中海・宍道湖、つまり汽水湖(海からの海水が川を遡って流入する湖)での研究を学生時代からずっと行っていました(これだけではありませんが)。
では、最近は、どのような研究を中心に行っているのかお話ししたいと思います。
地球温暖化や気候変動に関するニュースでも良く耳にすると思いますが、大気中の二酸化炭素(CO2)濃度の上昇は著しく、最近20年間で10%も上昇しています。それにともなう気温上昇も深刻な問題となっています。CO2の吸収については、森林が最も大きいと思うかもしれませんが、実は海域のCO2吸収量の方が森林の吸収量よりも大きく、2009年の国連環境計画報告書において「ブルーカーボン」という言葉がはじめて唱えられ、海域のCO2吸収の重要性が指摘されてきました。2050年頃を目途とする温室効果ガス排出量実質ゼロを達成するには、CO2排出量や大気CO2の大幅な削減が不可欠になります。そのため、新たなCO2吸収源として期待されているブルーカーボンに関する研究は、脱炭素社会とともにカーボンニュートラルの実現に重要であると考えられています。
このようなことから、最近は、大阪湾沿岸域、貯水池などの海域や淡水域の二酸化炭素の放出や吸収に関する測定手法の開発と現地観測を行い、ブルーカーボンに関する研究を進めています。
これまでの研究もそうですが、この研究テーマもフィールドワークが重要です。
千苅貯水池での調査状況 新西宮ヨットハーバーでの調査状況
※ブルーカーボン:海域で吸収・貯留されている炭素のこと
※宍道湖(島根県)は、日本で7番目に大きい湖であり、中海(鳥取県・島根県)は日本で5番目に大きい湖です。また、宍道湖と中海は大橋川によってつながっています。
※宍道湖は、皆さんがシジミのみそ汁として食べているヤマトシジミの漁獲が日本一です。
※この記事は、2021年9月の情報を元に作成されています。
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