子どもが暮らす生活の中から、子どもが育つ姿を描き出す~これまでも、これからも~ (学校教育講座 横山真貴子)

奈良教育大学
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子どもが暮らす生活の中から、子どもが育つ姿を描き出す~これまでも、これからも~ (学校教育講座 横山真貴子)

 身近なテーマについて教員に語っていただくリレーコラム。
 テーマは、引き続き「これまで→これから」
 奈良教育大学の教員のこれまでのあゆみ、そしてこれからの展望についてお話しします。

研究のはじまり:家庭での絵本の読み聞かせ

「え、こんなに違うの!」 4組の親子の絵本の読み聞かせの音声データを初めて聞いたときの私の感想です。私の研究の中心テーマは、子どもの発達と絵本です。研究のはじまりは、3~4歳代の子どもが就寝前に母親に絵本を読んでもらっている場面を1年間録音してもらい、親子の対話を分析した修士論文でした。

4組の親子の違いは大きく2点ありました。表1にあるように、まず読まれている絵本の種類が違いました。第2に、親子が交わす対話の量や内容が異なりました。一方で共通点もありました。読む絵本は主に子どもが選び、絵本世界を子どもの現実世界に引き寄せたり、絵の中から好きなものを選ぶなど、絵本の内容理解を促す以外の対話がどの家庭にも一定量見られました。こうしたことから3~4歳代は、子どもの興味関心や経験を基盤に、それぞれの親子が絵本を契機に語り合う時期であると考えられました。

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表1 4家庭の読み聞かせのスタイル(横山、2004より)

「子どもが暮らす生活の中から、子どもの育つ姿を描き出したい。」音声だけではありましたが、子どもの日常を対象とする研究は、分析を通してその日常を共に経験することでもありました。また、多様な要因が複雑に絡み合う日常の営みの中に共通性や法則性を見出すことは、私にとってワクワクする面白い経験でした。こうして、子どもが生活する場に身を置き、子どもとともに経験しながらデータを収集し分析することが、私の研究スタイルとなりました。

 

研究のひろがり:
家庭から保育・学校現場へ、絵本から文字・言葉へ

研究は研究を生みます。研究方法は変わらなくても、研究の対象はどんどん広がっていきました。家庭の次には、保育現場での読み聞かせを研究しました。担任の先生がクラスの子どもたちに絵本を読む場面を観察させてもらい、先生へのインタビューも行いました。するとやはり読み聞かせは多様で、同じ絵本でも先生によって、また同じ先生でも絵本やねらいによって、読み聞かせの時間の持ち方や読み方が異なりました。読み手と聞き手の関係のなかで多様な出会いが生まれる。それが絵本の特徴だと思うようになりました。

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写真1 戸外での絵本の読み聞かせ

 

本学に赴任してからは、附属幼稚園にほぼ週に1回のペースで観察に行かせてもらっています。連続する観察の中で、子ども自身が絵本をよむ姿の発達的変化を捉えたいと、3歳で入園した子どもたちの観察を3年間卒園まで続け、卒園後は附属小学校でも観察をさせてもらいました。その結果、クラスの本棚や図書室で子どもが自ら手に取る本は、いずれの年齢でも、先生が読んでくれた絵本や友達が読んでいた本が多くなっていました。子どもと絵本(本)との出会いは、人を介して生まれることがわかりました。

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写真2 友達と一緒に絵本をみる

3.jpg写真3 友達と一緒に保育室の掲示物(ドキュメンテーション)をみる

小学校での子どもたちの姿を見るなかで、絵本だけではなく「文字」にどのように出会い、習得し、使いこなしていくのか、子どもと「言葉」の関わりにも興味が広がりました。話し言葉中心の幼児期と書き言葉(文字)での学習が中心となる小学校での生活。両者の言葉の違いを子どもたちがどう乗り越え、それを保育者や教師がいかに支えていくのかを明らかにしたいと、現在は附属幼稚園と公立の小学校での観察を継続しています。幼児期の教育と小学校教育の滑らかな接続がより一層求められている今、幼小の先生方と協働しながら、子どもの育ちや学びをつなぎ、支える保育・教育のあり方を探っています。「子どもの姿からはじまり、その成果を子どもに還す」研究をめざしています。

学校教育講座 横山真貴子

 ※この記事は、2021年12月の情報を元に作成されています。

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カテゴリ   :   リレーコラム
最終更新 : 2022-05-11 09:59