生物多様性の魅力を伝えたい (理科教育講座 辻野 亮) 公開日  :  2022-02-01 16:33

奈良教育大学
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生物多様性の魅力を伝えたい (理科教育講座 辻野 亮)

 身近なテーマについて教員に語っていただくリレーコラム。
 テーマは、引き続き「これまで→これから」
 奈良教育大学の教員のこれまでのあゆみ、そしてこれからの展望についてお話しします。

 私が大学生になるまで過ごした街にはほとんど自然がありませんでした.とはいえ,公園や神社,都市緑地の自然がありましたので,全くなかったわけではありません.少年期にはそんな都市自然を渡り歩いてバッタやカマキリ,ヤゴ,アシナガバチを捕まえ,夏休みには蝉捕りをよくしていました.山の麓まで自転車で遠征して森の中をうろちょろしたことも一度や二度ではありません.その流れで高校では登山部に入り,大学生になっても山を歩いていました.しかし生き物のことは,よくわかりませんでした.

 高校生の時は物理・化学を選択していたので生き物の知識はからっきしで,大学でマクロ生物学や生態学を学んでやっと少しはわかるようになりました.しかし,生き物自体を知らなければ本や論文にある生き物の生態もよくわからないことに気づいてからは,琵琶湖の西側にある比良山に通って多様な植物を覚えだしました.さらに大学院では屋久島に住み込んで照葉樹林に通いつめ,照葉樹や固有植物,ヤクスギ,ヤクシカ,ヤクシマザルをはじめとした多様な生き物,生物多様性に魅了されてゆきました.屋久島では,樹木と地形の関係,ヤクシカによる採食圧,ヤクシマザルによる種子散布,キノコなどを研究しました.奈良教育大学に移ってからは,奈良公園のニホンジカ (図1) や奈良県南部の大峯山で標高と植物種多様性・哺乳類相の関係などを研究しています (図2,3).

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図1.奈良公園のニホンジカ

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図2.近畿地方最高峰八経ヶ岳 (大峯山) から見た弥山の縞枯れ林

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図3.前鬼 (下北山村) において,自動撮影カメラで捉えたツキノワグマの母子

 

 一方で世の中では生き物が少なくなってきています.世界自然保護基金 (WWF) によると,1970年から2016年の間に脊椎動物の個体群が68%も減少したとされていますし,日本列島に自生する約5,700種の維管束植物のうち29%が絶滅危惧種です.それゆえに森を歩いていて多様な生き物の中にレア種を見つけた時は喜びも一入です.このような生物多様性の危機は,人間による開発や乱獲,自然への働きかけの縮小,外来種,地球規模の環境変化などが原因と考えられています.つまり,生物多様性は人との関わりで失われつつあるわけです.逆に言えば人と自然の関わりをより良いものにしてゆけば,生物多様性は維持・回復してゆくはずです.

 日本列島における人と自然の関わりの歴史や世界の森林減少の歴史,東南アジアの森林減少の現代史を調べてみると,人々は必ずしも自然とよりよい関係性を築けてきたわけではないことがわかりました.しかしこのまま放置することはできませんし,奈良教育大学では自然環境教育センターを担当していますので,これからも自然環境や生物多様性,人と自然のより良い関わりについて研究や普及をしてゆきたいと思います.

理科教育講座 辻野 亮

 ※この記事は、2022年1月の情報を元に作成されています。

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カテゴリ   :   リレーコラム
最終更新 : 2022-03-23 15:34