「これまでも、これからも、理解しあえないわたしたち」<br>を乗りこえるために (国語教育講座 橋本昭典)

奈良教育大学
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「これまでも、これからも、理解しあえないわたしたち」
を乗りこえるために (国語教育講座 橋本昭典)

 

わたしたちは他人が考えていることを知ることができません。
わたしの1番近くにいる人は、今この瞬間、なにを考えているのか。
いくら言葉を費やしても、いくら相手に言葉を求めても、悲しいことに、本当にそう思っているのかを正しく確かめる方法はありません。
一方で、誰かと気もちが通じあったと感じられるときには、大きな幸福感につつまれることがあります。
あいみょんの『マリーゴールド』は、このような他者理解の真相をみごとに表現した曲です。

 

あいみょん 『マリーゴールド』

わたしたちには他者との関係を絶対的な肯定感をもってとらえられる瞬間があります。

“でも不思議なくらいに 絶望は見えない
    (作詞・作曲:あいみょん 『マリーゴールド』2018年 より引用)

くっきりと映しだされた2人の影に永続性を感じることもあるでしょう。

“雲がまだ2人の影を残すから” 

しかしながら、ならんでいる影は、その動きを風に依存する雲に左右されるものです。確かな想いも風の強さを感じるだけで揺れを生じます。そして何より、これらはあくまでもわたしの感じかたでしかありません。


 “2人の想いが同じでありますように”


わたしの1番近くにいる人が、わたしと同じ想いでいるかは結局のところ確証が得られず、祈るしかないのです。

 

祈りが通じるとき

望んだ結果がもたらされたとき、わたししか知らないわたしのがんばりが、見えない誰か(なにものか)の共感を呼びおこしたことが実感されます。わたしたちは、究極的には理解しあえないはずの他者に、想いが通じたと感じることができます。そのような瞬間があるからこそ、わたしたちはがんばることができるのでしょう。

 

翻訳という魔法

古典とは誰かが誰かに届けたかった想いの集積です。わたしは外国語で書かれた古典をよむことを仕事としています。言語の壁によって通じなかった想いも、翻訳という魔法にかければ、世界中に届けることができます。外国語大学で中国語を専攻して以来、これまでずっとこの仕事に魅力を感じてきました。

 

中国という他者理解のために

昨年、わたしは『中国は“中国”なのか』(東方書店)という翻訳書を出版しました。中国を代表する思想家・葛兆光(かつ・ちょうこう)氏による、最先端で最高峰の中国論です。『朝日新聞』にも中国理解の必読書として紹介されています(2021/11/13、2022/3/25)。日本にとって最重要の他者である中国を理解するために、ぜひ読んでほしい一冊です。
ちなみに、あいみょん『マリーゴールド』のMVは上海で撮影されています。

国語教育講座 橋本 昭典

 

・『朝日新聞』「好書好日」2021/11/17(もと『朝日新聞』2021/11/13の記事)
『朝日新聞』2022/3/25葛兆光氏インタビュー記事「よみがえる帝国の記憶」

 国語教育講座 橋本昭典教授

 ※この記事は、2022年3月の情報を元に作成されています。

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カテゴリ   :   リレーコラム
最終更新 : 2022-08-18 11:17