分かる理科の授業をつくる(理科教育講座 石井 俊行)

奈良教育大学
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分かる理科の授業をつくる(理科教育講座 石井 俊行)

 

 

 今日は理科教育講座の石井俊行教授の研究室に伺います!
 石井先生、早速ですが、先生の研究について教えてください。

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 僕は子ども達にとって分かる理科の授業を展開していくには、どのような方法があるのかについて研究を行っています。どういうところにつまずいてしまって分からないのか、どのようなアプローチや方法を採れば子ども達は分かったと腑に落ちるのかなど、分かる授業を展開する方法について研究を行っています。

 子ども達にとっての分かる授業ですか。授業が分かりやすいと勉強も楽しくなりますもんね。でも、学校の先生も一生懸命授業をなさっていると思うのですが・・・。

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 もちろん、学校の先生は毎日一生懸命に授業をしてくださっています。そこにもうひとつ内容を付け加えたり、他教科と教科横断的に教えたりすることで、より子ども達にとって分かり易い授業になるのではないかということを研究しています。アイデアを練り、現場の先生方に協力していただいて調査を実施し、その有効性を論文にして発表しています。

 そうなんですね!数多くの論文を執筆されているとは思うのですが、すぐに理解できるような事例を挙げていただけませんか?

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 小学4年理科に「乾電池のつなぎ方」があります。
乾電池2個の直列つなぎでは豆電球は乾電池1個のときよりも明るく点灯するのに、なぜ乾電池2個の並列つなぎでは乾電池1個のときと同じ明るさで点灯するのでしょうか。教えている先生が急にこんな質問を児童にされたら、どのように答えたらよいものか困惑してしまうこともあるかもしれません。

 

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 そこで、『水流モデル』を用いて、「水流の高さ(落差・電圧)が大きいほど水車が勢いよく回転する(豆電球が明るく点灯する)」という事を教えてみました。
 実際には水車とポンプを使用してその様子を児童に見せるのですが、電圧は水面の高さのようなものというイメージを持たせるために、「直列つなぎは乾電池を縦に積み上げること(図1)」、「並列つなぎは乾電池を横に並べて置くこと(図2)」と指導します。また、乾電池2個を逆向きにつないでしまうと豆電球は点灯しませんよね。このつなぎ方は非常に危険なので絶対にしてはいけないのですが、どうして豆電球は点灯しないのでしょうか。このことも先ほどの高さで考えると理由がすぐに分かります。図3のように乾電池1個で高さが1個分高くなっても、もう片方の逆向きの乾電池で高さが1個分下がってしまいますので、結果的に高さがなくなるために豆電球は点灯しないことになります。

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図1 乾電池2個直列つなぎの場合 


図2 乾電池2個並列つなぎの場合

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図3 電池2個を逆向きにした場合

 

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 乾電池のつなぎ方を電池の高さに例えるなんて考えもつきませんでした!そうやって教わったら、乾電池の直列つなぎと並列つなぎがこんがらなくなりますし、電圧のことも何となく理解できるような気がします!

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 そうなんです。この調査では、乾電池を縦に積み上げたり、横に置いたりして電圧の考え方を教えたグループは、教えなかったグループに比べて学習の定着率が1か月、3か月後も高いという結果が出ました。理科はイメージが特に重要ですから、こういう取組をどんどん増やしていければと思っています。
 電圧は中学理科の範囲ですが、工夫すれば小学生にもある程度理解させることができるということです。
 学習指導要領では小学4年の児童には電圧は難しいということで取り扱わないことになっています。しかし、この調査では電圧の考え方は普段の授業内容と難易度は変わらず、しかも科学的な考え方もできるようになることが分かりました。詳しいことは「石井俊行・八朝陸・伊東明彦(2016):小学校理科に電圧概念を導入することの効果~電気学習の新たな試み~,科学教育研究,40(2),222-233.」を読んでいただければと思います。

 勉強することを先取りしちゃうみたいですが、中学生になって電気学習を行う際にイメージが掴めて理解しやすくなりそうですね。

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 先取りするのは決して悪いことではないんですよ。小学4年の児童に分かるような形で提供することに意味があるのです。なっきょんの言うとおり、きちんと回路を正しく理解していると、中学・高校に進学したときに理解が楽になります。間違ったイメージを持ってしまったことを覆すのに大変苦労したという事例が報告されています。よいイメージを早くから持たせることはとても重要だと考えます。
 なお、図4の回路があったとします。考え方を知った小学4年の児童の多くは、この回路では乾電池2個直列つなぎの明るさと同じ明るさで豆電球は点灯すると自信をもって答えることができるようになります。

4図4 乾電池2個並列に1個直列につないだ回路

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 授業内容がしっかり分かると、子どもにも先生にもよいことがあるんですね。他にもいろんな事例を知りたいです!

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 それなら、論文を読むことをオススメします。
 論文は、大学の研究者や現場の先生方が実際に授業実践をした結果がまとめられています。よい勉強の材料になりますよ。
 今回は時間の都合上触れることはできませんでしたが、「石井俊行・岡本智子・柿沼宏充(2020):小学4年『ものの温度と体積』に粒子モデルを導入することの効果~電子レンジで粒の動きと温度の関係に着目させて~, 科学教育研究,44(3),168-179.」をお読みください。
 この論文は、空気、水、金属がなぜ熱膨張するのかを理解させるために、電子レンジの仕組みを児童に伝えることで解決できたという報告です。普段電子レンジを児童も使っていますが、なぜチンをすると温かくなるのかという原理については知りません。ブラックボックスになっています。「電子レンジは水の粒に動けと命令を出す装置だ」と教えることで、熱膨張を粒の熱運動で説明できる児童が有意に増加したことを確認することができました。
 現行の教え方では、中の粒が大きくなったり、数が増えたりするから熱膨張が起こるのだと誤概念を持つ児童がほとんどであることが分かっています。そのような誤概念を持たせないためにも、電子レンジの仕組みについて触れると、熱運動論も児童は理解することができるようになります。

 ありがとうございます!分かりやすい授業研究をした論文がたくさんあると、それだけ授業のヒントがあるってことですね。

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 そうなんです。ですから、奈良教育大学の学生の皆さんにも、現職の先生方にも、積極的に論文を読んでいただくと同時に、将来論文を書いていただきたいと願っています。それは多くの方々が教育実践を論文の形にして発表し合うことで、子ども達への効果的な教育活動が全国で展開されていくものと私自身が信じているからです。ぜひ若い方々にはがんばっていってほしいです。
 以下の本は「教育論文の書き方」について高校生でも理解できるように易しく解説しています。よかったらご一読ください。



 「こういう方法でやったらうまくいった」という方法が共有されて、良い授業がもっと増えていくと良いですね!今日はありがとうございました!

 

理科教育講座 教授 石井 俊行

※この記事は、2022年7月の情報を元に作成されています。

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カテゴリ   :   研究コラム
最終更新 : 2023-03-28 14:28