からだへのまなざし(保健体育講座 井上 邦子)

奈良教育大学
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からだへのまなざし(保健体育講座 井上 邦子)

 

 

 今日は保健体育講座の井上研究室にやってきました!よろしくお願いします!

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 よろしくお願いします。

 先生は、どんな研究をされているんですか?

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 私は、スポーツはなにか、ということをスポーツの文化の視点から考えていて、具体例として、モンゴルの伝統スポーツを研究しています。そのスポーツの成り立ちや、伝統スポーツを行っている方々がスポーツをどのようにとらえているのか、それにまつわる身体についてどう考えているのかなどについて研究しています。

4モンゴル相撲

 ふむふむ。伝統スポーツと身体って、どんな関わりがあるんですか?

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 私は、人が一緒に生きるため、人と人がコミュニケーションをとるためには、身体からだがとても重要な役割を果たしていると思っているんです 。しかし、最近は、自分自身と身体を別のものとして客観的にとらえていている人が多くなっている。そういう人は、過度なダイエットをしたり、ドーピングをしたりと、身体を好きに加工できるものだと思っているんですね。
 そうではなく、自分自身が身体であるという感覚をもってほしいんです。私は、身体を動かして人とコミュニケーションをとることを通じて、自分は身体的な存在であるということを感じられると考えています。そのために、身体を通じたコミュニケーションが歴史の中で受け継がれている伝統スポーツを研究しているんですよ。

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 なるほど!身体は心を入れるための器ではなくて、心と身体はひとつだよ、ということが、伝統スポーツを通じてわかるということなんですね。
 それって、保健体育とはどう関連しているんですか?

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 保健体育は、体力をつけ健康になることや体の使い方を身に着けることだけでなく、自分や他の人の身体というものを感じたり学んだりして、ともに育んでいく考え方を身に着ける。そういう大切な役割もあるんですよ。
 伝統スポーツの中で、人とコミュニケーションをとるためにどのように身体を使っているかということを深堀していけば、「保健体育で教えるべき身体とはこういうものだ」「身体を通じて一緒に育んでいくものはこういう姿だ」ということがわかってくると考えています。

 身体そのものを学ぶということは、保健体育の一番根っこの部分を学ぶことなんですね!そうなると、学校の先生はどんな取り組みができるんでしょう。

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 そうですね。身体と心が別物だと思うからこそ、他人に暴力をふるったり、自分の身体を傷つけてしまいます。そうならないように、教師が、身体と心はひとつだということ、相手の身体も大切にできるようになることを教えることが大切です。心と身体は一体で、そういうものが自分の身体だという考えを教師自身が持つことが必要ですね。

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 なるほど。自分も相手も大切にできるようになるための考え方を身に着けることが身体に直接働きかける保健体育だからこそできる学びかもしれないですね。実際の体育の授業ではどういう活動をしているんですか?

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 たとえば、体ほぐし運動の中で取り入れています。相手のことを思ってせなかを優しくさすったり、背中に耳を当ててみたりします。心臓の音がする、あったかい、触れられて気持ちいいなどと、身体のコミュニケーションを通じて相手の身体ごと感じることができます。相手がドキドキしたり緊張したりしていることを言葉にしなくても感じ取ることができるようになれるのが理想ですね。これから教師になる学生にも、そういうイメージを持ってほしいです。

 ふむふむ。保健体育のなかで、相手の身体ごと受け入れられるようになったら、きっと人とのコミュニケーションはもっとうまくいくようになりますね。先生のゼミの学生さんもこういう研究をされているんですか?

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 うちのゼミは、かなりテーマの幅が広いんです。体操服のデザインが変更された際の背景や、生徒たちが自主的に運動部活動をするための方法、コカ・コーラのコマーシャルに使われたスポーツとその後の日本でのブームへの影響、バドミントンのサーブのルールの変更の背景など、とても自由です。自分が面白いと思えるものについてテーマにしてもらいますが、卒業論文で書くとなると、みんな試行錯誤しながら決めていっています。

 スポーツの文化って身近なところも含めてたくさんの視点があるんですね!学生さんのテーマもとっても面白そうです!先生自身はこれからもモンゴルの伝統スポーツを研究していくんですか?

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 私自身は、モンゴルのある地域で日常的に踊られているダンス「ビービエルゲー」の研究をしたいと思っています。モンゴルでも踊っている人は少なくなってきていて、ユネスコの世界無形文化遺産にも登録されているんですが、登録後は国際的に認められた形で保存するためや、観光資源としての利用のため、観客に見せるためのダンスとしての意味合いが強調されてきます 。私はそうではなく、もともとの家族の中で親から子へ受け継がれていく日常の中のダンスの文化を研究させてもらいたいと思っています。

4モンゴル国ホトンのダンス

4モンゴル国バヤドのダンス

 そうなんですね。受け継がれてきたそのものの姿や文化を研究することって、とても大切ですね。また研究成果を楽しみにしています!今日はありがとうございました!

 

保健体育講座 准教授 井上 邦子

※この記事は、2022年12月の情報を元に作成されています。

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カテゴリ   :   研究コラム
最終更新 : 2022-12-22 08:54