奈良県南部は山がちな地形であり、東から台高山脈 (高見山と大台ヶ原を結ぶ山脈)、大峯山、伯母子山地が南北に並んでいる。奥吉野実習林は、伯母子山地の中心にある伯母子岳 (標高1,344 m) から北東に延びる稜線と同じ方向に流下する赤谷川との問に位置する。宿舎のある山麓の標高は395.5 mで、奥吉野実習林の山頂である清水ヶ峰の三角点は1,186.2 mであり、およそ800 mの標高差がある。斜面は北西に面した急傾斜で山腹には多くの谷が走っている。
「奈良教育大学自然環境教育センターの自然」に記載された植生図によると (奈良教育大学 1994)、植生は概ね標高によって変わり、標高400 m~700 mにはウラジロガシ群落にモミツガ群落が混じり、標高700 m~950 mにはイヌブナ群落やミズメ・イヌブナ群落、さらに標高があがって標高950 m~1,100 mにはブナ・ミズナラ群落やミズメ・ミズナラ群落、ミズナラ群落、1,100 m以上の稜線域にはブナ・ミズナラ群落やブナ群落が成立する。赤谷川周辺や斜面の谷部の崩れやすい地形にはガクウツギ・フサザクラ群落が成立し、宿舎近くの標高600 m未満にはスギ・ヒノキの植林地がある。
植林地は、1950年から1953年および1969年から1975年までに植栽されたスギが主に生育していて、尾根にはヒノキも植栽されている。スギ・ヒノキ林の下層には、ウラジロガシやツクバネガシの稚樹やアラカシ、ユズリハ、ツバキ、サカキ、ヒサカキ、シキミなどの常緑樹、ズイナやタムシバ、クロモジ、マルハアオダモ、コアジサイ、ヤブウツギ、ツクバネウツギなどが生育する。また、大塔寮の裏手にはコナラ林が植栽され、他にもクリとクヌギ、シャクナゲなどが植栽されている。コナラはこの付近の低地の二次林 (雑木林) を構成する代表的な種であり、標高約700 m以上では近縁のミズナラに取って代わる。なお宿舎の玄関前のモミとエンコウカエデ、ウバメガシはかなり大きな自然木である。
常緑広葉樹林であるウラジロガシ群落では、常緑のウラジロガシやソヨゴ、ユズリハ、ツクバネガシ、カナメモチ、サカキ、ヒサカキなどの常緑樹に加えて、ホオノキ、タムシバ、ネジキ、イヌシデなどの落葉樹も生育する。
落葉広葉樹林であるイヌブナ群落やミズメ・イヌブナ群落では、ミズメやイヌブナ、ホオノキ、イイギリ、リョウブ、クリ、ユズリハ、シャクナゲ、ソヨゴ、アセビ、ヒイラギなどが生育する。イヌブナは標高680 m付近から900 m付近まで多く生育する。標高約800 m付近にはミズナラとイヌブナが多いが、やがてブナが出現して次第に交代する。ブナは落葉樹林帯の代表的な種であり、紀伊半島では標高約800 m以上に生育している。
さらに高所のブナ・ミズナラ群落やミズメ・ミズナラ群落、ミズナラ群落では、ブナやミズナラが多く、アカシデやミズメ、ホオノキ、ヒメシャラ、オトコヨウゾメ、アワブキ、ヤマザクラ、コハウチワカエデ、イタヤカエデ、ウリハダカエデなどと常緑樹低木のソヨゴやアセビ、針葉樹のモミやツガなどが生育する。
稜線や山頂部には、ブナやミズナラ、コハウチワカエデ、アカシデ、アセビ、ネジキが多く、ヒメシャラ、モミ、ウラジロノキ、オオカメノキ、リョウブ、ガマズミなども生育している。樹木には、かぶれやすいツタウルシがしばしば絡んでいる。以前は稜線まで登山道を登るとスズタケ群落が見られたが、近年ではニホンジカによる採食圧の影響で姿を消してしまった。
奥吉野実習林の植生や登山道沿いの植物や動物、種子植物目録、脊椎動物目録、水生昆虫、大型蛾類などに関してより詳しく知りたい方は、「奈良教育大学附属演習林の自然」や「奈良教育大学自然環境教育センターの自然」をご参照ください。
・奈良教育大学 (1991) 奈良教育大学附属演習林の自然. 奈良教育大学. http://hdl.handle.net/10105/3734
・奈良教育大学 (1994) 奈良教育大学自然環境教育センターの自然. 奈良教育大学. http://hdl.handle.net/10105/1254